キオクシアホールディングス(285A)について、SNS上では「PERだけを見ると高いが、利益成長を考えればまだ割安ではないか」という見方が出ています。
この言説が読者の目を引く理由は分かりやすいものです。2026年3月期の利益は大きく伸び、会社が示した2027年3月期第1四半期の見通しも強い。一方で、株価は短期間で大きく動き、実績PERは高い水準にあります。
では、「まだ割安」という見方は、どこまで公開情報で支えられているのでしょうか。
本記事では、この言説を支持も否定もせず、確認できる事実、期待を含む前提、まだ確認できない点に分けて整理します。特定銘柄の取得・売却・保有を勧めるものではありません。
検証する言説:「PERが高くても、利益成長を考えればまだ割安」
今回取り上げるのは、次のようなSNS上の見方です。
PERが高く見えても、キオクシアは利益成長を考えればまだ割安ではないか。
この見方には、一定の背景があります。
キオクシアはNAND型フラッシュメモリを中心とする半導体メモリメーカーです。生成AIの普及に伴い、データセンター向けSSDやストレージ需要が注目され、NAND市況への期待も強まりました。
一方で、NANDは市況変動が大きい分野です。好況期の利益をそのまま将来へ引き延ばしてよいのかは、慎重に見なければなりません。
つまり今回の論点は、単に「PERが高いか低いか」ではありません。
低く見える予想PERの前提に、どれだけ確認済みの事実があり、どれだけ未確定の期待が入っているのか。ここを分けて読む必要があります。
まず確認できること:実績PERは約90.01倍
会社開示と6月26日の終値を使うと、実績PERは約90.01倍になります。
計算に使った前提は次の通りです。
| 指標 | 数値 | 確認元 |
|---|---|---|
| 2026年3月期 基本的1株当たり当期利益 | 1,024.07円 | 会社開示 |
| 2026年6月26日 終値 | 92,180円 | J-Quants確定値 |
| 実績PER | 約90.01倍 | 92,180円 ÷ 1,024.07円 |
キオクシアの2026年3月期決算短信では、基本的1株当たり当期利益は1,024.07円とされています。これに2026年6月26日の終値92,180円を当てはめると、実績PERは約90.01倍です。
ここで言えるのは、足元の確定利益を基準にすると、キオクシアのPERは低くないということです。
ただし、実績PERだけで「割高」と結論づけるのも早計です。なぜなら、市場が見ているのは過去の利益だけではなく、今後の利益水準だからです。
利益見通し:会社が示した第1四半期予想は大きい
会社が2026年5月15日に発表した2026年3月期決算短信では、2027年3月期第1四半期の業績予想も示されています。
主な数値は次の通りです。
| 期間 | 指標 | 会社予想 |
|---|---|---|
| 2027年3月期 第1四半期 | 売上収益 | 1兆7,500億円 |
| 2027年3月期 第1四半期 | 営業利益 | 1兆2,980億円 |
| 2027年3月期 第1四半期 | 親会社の所有者に帰属する四半期利益 | 8,690億円 |
この第1四半期の利益予想は、2026年3月期通期の親会社の所有者に帰属する当期利益5,544.90億円を上回る規模です。
この数字が、「利益成長を考えるとまだ割安ではないか」という見方の中心にあります。
ただし、ここで注意したい点があります。会社が開示しているのは、確認できる範囲では第1四半期の業績予想です。2027年3月期の通期会社予想として、年間の利益額が同じペースで続くと公式に示されているわけではありません。
そのため、第1四半期予想を年率換算してPERを計算することはできますが、それは機械的な試算であり、会社の通期予想ではありません。
参考までに、第1四半期予想を単純に年率換算すると、次のようになります。
第1四半期の親会社所有者帰属利益予想: 8,690億円
2026年3月期末の発行済株式数: 546,086,290株
第1四半期ベースの1株利益試算: 約1,591.32円
単純年率換算EPS: 約6,365.29円
92,180円 ÷ 6,365.29円 = 約14.48倍
この試算だけを見ると、実績PER90.01倍に比べてかなり低く見えます。
しかし、これは「第1四半期の利益水準が4四半期続く」と仮定した場合の計算です。メモリ市況の変動が大きい企業で、この仮定をそのまま置いてよいかは別問題です。
「予想PERが低い」は、どこまで確認できるのか
SNS上の割安説では、「予想PERが低い」という言い方がよく使われます。
ただし、公開情報で確認する場合、この表現には注意が必要です。
Yahoo!ファイナンスでは、2026年6月26日時点でPER(会社予想)とEPS(会社予想)は表示されていませんでした。これは、会社側の通期予想EPSが公開データとして確認しにくいことを示しています。
一方で、アナリストや情報ベンダーが独自に予想EPSを置けば、予想PERは算出できます。会社IRのアナリストカバレッジにも複数の証券会社・調査機関が掲載されていますが、会社自身はアナリストの予測や推奨を支持せず、正確性も保証しないと説明しています。
したがって、本記事では「予想PERが何倍だから割安」とは書きません。
確認できる範囲で言えるのは、次の2点です。
- 第1四半期の会社予想利益を単純年率換算すると、PERは約14.48倍まで下がって見える
- ただし、それは会社の通期予想ではなく、機械的な試算である
低く見えるPERには、必ず「その利益水準が続く」という前提があります。
「PERの罠」:好況期ほど割安に見えることがある
ここが今回の記事の核心です。
半導体メモリは、需給によって販売単価が大きく動く事業です。需要が強く、供給が限られる局面では、販売単価が上がり、利益が急拡大します。
一方で、増産や需要鈍化によって需給が緩むと、販売単価が下がり、利益も大きく縮むことがあります。
このような好況と不況の波は、シリコンサイクルと呼ばれます。
PERは「株価 ÷ 1株当たり利益」で計算します。そのため、利益が急増すると、株価が同じでもPERは低くなります。
つまり、好況期のピークに近い利益を分母にすると、PERは最も割安に見えやすいのです。
これが「PERが低いから割安」と単純に読めない理由です。
キオクシアの場合、足元の利益拡大はNAND市況や平均販売単価(ASP)の上昇と深く関係しています。したがって、割安説を読むときは、PERの数字だけではなく、次の問いを置く必要があります。
- NANDの販売単価はどこまで維持されるのか
- データセンター向けSSD需要はどこまで続くのか
- 第1四半期の利益水準は、通期でも再現されるのか
- 競合の増産や顧客在庫の積み増しは、どのタイミングで市況に影響するのか
この問いに答えないまま、予想PERだけで割安と読むのは危うい見方になります。
NAND市況:強い需要は材料だが、持続性はまだ確認が必要
会社開示では、2026年3月期のフラッシュメモリ市場について、スマートフォンやPC向け需要の回復に加え、データセンターおよびエンタープライズ向けでAI用途によるサーバー需要が増加し、市場拡大が継続していると説明されています。
これは、キオクシアの利益拡大を読むうえで重要な事実です。
一方で、TrendForceの2026年6月16日前後の「NAND値上げ幅縮小シグナル」については、公開一次情報として確認できる資料を特定できませんでした。そのため、本記事では特定の値上げ幅縮小シグナルを事実としては扱いません。
公開できる表現としては、次の整理にとどめます。
- NAND需要がAI・データセンター向けに強まっていることは、会社開示から確認できる
- ただし、NAND価格の上昇がどの程度続くかは未確定である
- 市況が反転した場合、利益水準も大きく変わり得る
「市況が強い」ことと、「その強さが続く」ことは別です。
株式分割:正式発表は確認できるのか
株式分割についても、SNS上では関心が高まっています。
確認できる会社開示としては、2026年5月15日付の「投資単位の引下げに関する考え方及び方針等について」があります。
この資料では、会社は投資単位の引下げを投資家層の拡大や株式市場活性化のための重要施策の一つと認識している一方で、株価や市場動向、株主構成の変化、既存株主への影響などを総合的に勘案し、慎重に検討するとしています。
つまり、2026年6月27日時点で、株式分割の比率、基準日、効力発生日を含む正式な分割発表は確認できません。
ここも事実と期待を分ける必要があります。
- 確認できる事実: 投資単位引下げを検討する方針は開示されている
- 未確認の点: 株式分割の実施、比率、基準日、効力発生日
株式分割は最低投資金額や需給に関わる話題ですが、企業価値そのものを増やす材料ではありません。
値動き:6月25日の急反発後、6月26日は大きく反落
直近の値動きも、割安説が広がりやすい背景です。
J-Quants確定値によると、キオクシア株は2026年6月25日に終値103,850円、前日比+12.27%となりました。
しかし翌6月26日は終値92,180円、前日比-11.24%でした。
1日で大きく上げ、翌日に大きく下げる。この値動きは、同社株が業績期待だけでなく、半導体セクターの地合いや短期資金の影響も受けやすいことを示しています。
「まだ割安」という言説を読むときも、この値動きの大きさは無視できません。
PERの議論は中長期の利益を前提にします。一方で、実際の株価は短期的に大きく振れます。数字の見え方と値動きの荒さは、分けて見たほうがよい論点です。
強気側と留保側の論点を分ける
ここまでの内容を、強気側の論点と留保側の論点に分けると次のようになります。
| 観点 | 強気側の読み方 | 留保側の読み方 |
|---|---|---|
| 実績PER | 実績だけを見ると高いが、過去利益ではなく今後利益を見るべき | 実績PER90.01倍は、確定利益基準では高い水準 |
| 第1四半期予想 | 会社が示した利益見通しは大きく、利益成長の根拠になる | 第1四半期予想を通期化するのは機械的試算であり、会社の通期予想ではない |
| NAND市況 | AI・データセンター向け需要が追い風 | 販売単価が反転すれば利益は大きく変わる |
| 予想PER | 第1四半期利益を年率換算すると約14.48倍まで低く見える | 低く見えるPERは、利益水準の継続を前提にしている |
| 株式分割 | 投資単位引下げの検討は開示されている | 分割の正式発表、比率、基準日は未確認 |
| 値動き | 強い材料に反応しやすい | 6月25日+12.27%、6月26日-11.24%と短期の振れが大きい |
どちらか一方だけを見れば、結論は簡単に見えます。
しかし、実際には「利益成長の事実」と「その利益が続く期待」が重なっているため、単純な割安・割高の判定はできません。
いま確認できること、まだ分からないこと
最後に、確認できることと、まだ分からないことを整理します。
| 確認できること | まだ分からないこと |
|---|---|
| 2026年3月期の基本的1株当たり当期利益は1,024.07円 | 2027年3月期通期の会社予想EPS |
| 2026年6月26日終値92,180円を使うと実績PERは約90.01倍 | 第1四半期予想の利益水準が通期で続くか |
| 会社は2027年3月期第1四半期の親会社所有者帰属利益を8,690億円と予想 | NAND価格の上昇がどこまで続くか |
| 第1四半期予想を単純年率換算するとPERは約14.48倍まで低く見える | 株式分割の正式実施、比率、基準日 |
| 6月25日は+12.27%、6月26日は-11.24%と値動きが大きい | 2027年3月期第1四半期の実績値 |
2027年3月期第1四半期の実績は、2026年6月27日時点ではまだ発表されていません。会社IRカレンダー上は、第1四半期決算発表は8月区分に置かれています。
「キオクシアはまだ割安」という見方は、会社の第1四半期見通しという確認可能な材料に支えられています。
一方で、その見方は、NAND市況、ASP、利益水準の持続、通期業績の着地という未確定要素にも依存しています。
本記事の結論は、割安とも割高とも断定しないことです。
見るべきなのは、PERの数字そのものではありません。そのPERが、どの利益を分母にしていて、その利益がどれだけ続く前提なのかです。
関連記事
主な確認元
- キオクシアホールディングス「2026年3月期 決算短信」
https://ssl4.eir-parts.net/doc/285A/tdnet/2815552/00.pdf
- キオクシアホールディングス「投資単位の引下げに関する考え方及び方針等について」
https://ssl4.eir-parts.net/doc/285A/tdnet/2815573/00.pdf
- Yahoo!ファイナンス「キオクシアホールディングス(285A)」
https://finance.yahoo.co.jp/quote/285A.T
免責事項
本記事は、公開情報をもとに、SNS上で話題となっている投資言説を検証・整理することを目的としています。特定の金融商品の取得・売却・保有を推奨するものではありません。
株式投資には価格変動リスク、流動性リスク、信用リスク、為替リスク、制度変更リスクなどが伴います。掲載内容の正確性・完全性・最新性には注意していますが、これを保証するものではなく、情報は公開後に変更・訂正・更新される可能性があります。株価・各種数値は2026年6月27日時点で確認した情報を含みます。投資に関する最終判断は、ご自身の責任で行ってください。


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